日銀がマイナス金利解除!?17年ぶりに金利を引き上げってどういうこと?マイナス金利とは?

2023年3月19日、日本銀行はマイナス金利政策を解除することを決定しました。これにより、無担保コールレートの翌日物の誘導目標が0%から+0.1%に設定され、短期金利は0.1ポイント程度上昇することになります。

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この政策変更を受け、三菱UFJ銀行と三井住友銀行は同日中に、普通預金の金利を現在の0.001%の20倍にあたる0.02%に引き上げることを発表しました。みずほ銀行、りそな銀行、三井住友信託銀行も金利を引き上げる可能性が高まっています。これは、日本銀行が前回金利を上げた2007年以来、約17年ぶりの動きです。

マイナス金利とは、中央銀行が金融機関に課す金利が0%を下回る政策のことです。これにより、金融機関が中央銀行に預ける余剰資金に対して、利息を受け取るのではなく、逆に中央銀行に手数料を支払うことになります。

そこで今回は、マイナス金利とはなにか?マイナス金利を解除するとなにが起こるのかを初心者にもわかりやすく解説いたします。

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目次

マイナス金利とは何か?

多くの方が「マイナス金利だから金利が下がる」と思われがちですが、マイナス金利の本質を理解するためにはもっと深い知識が必要です。実は、マイナス金利にはとても興味深い背景があります。これを理解することで、経済ニュースをもっと簡単に理解できるようになるでしょう。

マイナス金利を理解するには、まず銀行と日本銀行の関係を知る必要があります。日本銀行はいくつかの重要な役割を担っており、その一つが「銀行の銀行」としての機能です。

私たち一般の人々はお金を銀行に預けますが、銀行自身も日本銀行にお金を預けています。たとえば、A銀行やB銀行も、それぞれ日本銀行にお金を預けることになります。

これにより、異なる銀行間での送金が容易になります。銀行が互いに現金を運搬する必要がなくなるのです。送金は日本銀行の内部で帳面上のやり取りだけで済むため、効率的な金融取引が可能になります。

日本銀行の当座預金と金利の関係

銀行が日本銀行に持っている口座を『当座預金』と言います。通常、当座預金は無利子ですが、2008年11月の世界金融危機対策として、日本銀行は当座預金に金利を付与するようになりました。この金利は0.1%に設定されています。

たとえば、ある銀行が日本銀行に1兆円を預金した場合、金利は0.1%で、その金利収入は10億円になります。仮に0.01%の金利で1兆円の預金を集め、それを日本銀行に預ければ、9億円の利ざや(利益)を得ることができます。

このシステムにより、銀行は貸し倒れリスク(貸したお金が返ってこないリスク)を気にせずに収益を得ることが可能になりました。2008年に当座預金に金利がつくようになってから、日本銀行の当座預金残高は約15兆円から、マイナス金利が導入された2016年には約260兆円にまで増加しました。

例えば、そのうち210兆円に0.1%の金利が適用されると、その金利収入は約2,100億円にもなります。これは銀行にとって非常に大きな収益源となり得ます。

マイナス金利政策の導入とその効果

マイナス金利政策では、銀行が日本銀行に預ける当座預金にマイナスの金利が適用されます。つまり、銀行は日本銀行にお金を預けると、手数料を支払う必要が出てきたのです。預ける金額が多ければ多いほど、銀行が日本銀行に支払う手数料も増えます。

このため、銀行は日本銀行にお金を預けるメリットを失います。

日銀が金融機関から預かる当座預金の一部にマイナス0.1%の金利をつけることで、預金が積み上がると損をする環境を生み出し、金融機関が世の中にお金を回すよう促す狙いがありました。これにより、銀行から企業や個人への貸し付けが増加することが期待されます。

結果として、企業の設備投資や住宅建設が促進され、景気の後押しを目指したのです。マイナス金利の対象は10兆円~30兆円の範囲で、定期的に額が見直されます。

マイナス金利政策により、銀行が保有する預金の一部が日本国債の購入に使われるようになりました。これは国債価格の上昇に繋がり、金利が低下することになります。最終的には長期国債でもマイナス金利での売買が行われるようになりました。

同時に、銀行は積極的に貸出先を探し始め、住宅ローン金利などの貸出金利が低下しました。銀行にとっては、マイナス金利で日本銀行に預けるよりも、低利率でローンを組む方に資金を提供した方が利ざやを稼ぐことができます。

この政策の導入当初は批判も多かったですが、2017年上半期の新設住宅着工戸数は前年同期比2.1%増加し、2017年度の全産業の設備投資動向調査では前年比13.6%の増加が見られました。

マイナス金利政策の導入後、企業向けの貸出金利や住宅ローンの金利は大幅に低下しました。しかし、物価の上昇への効果は限定的であり、金融機関の収益が圧迫されるなどの副作用が発生しました。また、年金基金の運用にも悪影響が出たことが報告されています。

マイナス金利政策は、ヨーロッパの中央銀行でも導入された事例があります。しかし、世界的な物価上昇を背景に、多くの中央銀行が利上げに転換しています。現在、マイナス金利政策を継続しているのは日本銀行だけとなっています。

普通預金金利の引き上げとその影響

2023年3月末時点で、日本の個人が銀行や信用金庫に預けている普通預金の総額は442.5兆円です。もし、これらの預金の金利が一律で0.001%から0.02%に引き上げられると、個人の普通預金による金利収入は年間で841億円増加すると計算されます。しかし、これは日本全体の雇用者報酬300.5兆円(2023年)の0.03%に過ぎず、個人の利子所得に与える影響は非常に小さいことがわかります。

一方、マイナス金利政策の解除に伴い、三菱UFJ銀行は10年物の定期預金金利を0.2%から0.3%に引き上げると発表しました。他の銀行も長期金利の上昇を受けて定期預金金利を引き上げていますが、その動きにはばらつきがあります。

もし他の銀行が三菱UFJ銀行と同様に定期預金金利を0.1%ポイント引き上げる場合、個人の利子所得はさらに2,163億円増加する計算になります。マイナス金利政策の解除が個人の利子所得に与える影響は、各行の定期預金金利の引き上げ具合によって左右されることが予想されます。

短期プライムレートの据え置きとその影響

短期プライムレート(短プラ)とは、金融機関が企業に対して貸し出す際の「最優遇貸出金利」のことです。これは、1年以内の短期貸し出しの基準となる金利を指します。住宅ローン利用者の約7割が利用しているとされる変動型金利は、この短期プライムレートと連動して動く傾向にあります。

今回、日本銀行がマイナス金利政策を解除しても、三菱UFJ銀行と三井住友銀行は短期プライムレート(1.475%)を据え置くことを決定しました。これにより、変動型住宅ローンの金利は大きく変化しないとみられます。同様に、企業向け貸出金利も大きく変動することはないでしょう。

短期プライムレートの決定要因は完全に明らかにされていませんが、無担保コールレート翌日物を中心に、銀行の短期資金調達コストの変化が大きく影響します。短期プライムレートが最後に下がったのは、日本銀行が政策金利を0.3%から0.1%に引き下げた2009年でした。

無担保コール

金融機関同士が「今日借りて、明日返す」、「今日貸して、明日返してもらう」といったような1日で満期を迎える超短期の資金調達や資金供給を、借り手が貸し手に対して担保を預けずに行う取引です。

2016年に日本銀行がマイナス金利政策を導入した際、短期プライムレートは据え置かれました。これは企業向け貸出や住宅ローン金利の一層の低下が銀行の収益に悪影響を与えることを避けるためだったと考えられます。その際、短期金利が引き下げられたにもかかわらず短期プライムレートの引き下げは見送られました。今回も、短期金利が以前の水準まで引き上げられても、短期プライムレートの引き上げは見送られることになったのでしょう。

なぜマイナス金利政策を解除したのか

日本銀行は、なぜ今、マイナス金利政策を解除すると判断したのでしょうか。その理由は、賃金の上昇と物価の安定的な2%上昇という、「賃金と物価の好循環」が見込めるようになったからです。

まず物価が変動しました。コロナ禍による経済活動の停滞が終わり、供給に混乱が生じたことがきっかけで、2021年秋から様々な商品の価格が上昇しました。さらに、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻により、エネルギーや穀物価格が急上昇しました。

消費者物価指数(生鮮食品を除く)は、2022年4月から2023年1月までの1年10か月間、日銀が目指す2%以上の上昇を続けています。日銀は2023年度に2.8%、2024年度に2.4%、2025年度に1.8%と、物価上昇率が2%前後で推移すると見込んでいます。

外的な要因が物価上昇のきっかけとなり、経営者の間ではコスト上昇を価格に上乗せする動きが広がりました。

物価上昇の中で、賃金引き上げの動きも出てきました。価格転嫁により企業収益が改善し、人手不足の中で優秀な人材を確保する動機もあり、昨年春の賃上げが相次ぎました。今年も春闘で賃上げが続き、連合の集計では平均賃上げ率が5.28%、33年ぶりの高水準となりました。

実質賃金は物価の変動分を反映して1年10か月連続でマイナスですが、日銀は賃上げの流れが続いていると見ています。

日銀の政策転換が及ぼす経済への影響

預金金利の変動

日本銀行の政策転換により、銀行の預金金利が上昇する可能性があります。現在、多くの金融機関の普通預金金利は0.001%と非常に低い状態ですが、マイナス金利の解除により金利が上昇し、利用者にとっては利益となるでしょう。

住宅ローン金利の変動

一方、住宅ローンの金利は上昇する可能性があります。特に固定型の金利は長期金利の上昇傾向を受けて引き上げられる動きがあります。変動型の住宅ローン金利については、大手銀行の短期プライムレートが変わっていないため、今後の市場金利の動向に注目が集まっています。

企業の借入金利

企業にとっては借入金利の上昇が見込まれます。これにより、新規事業や設備投資のための財務負担が増加することが予想されます。しかし、日銀は今後も緩和的な金融環境を維持し、急激な利上げを避ける方針です。

株価への影響

金融市場、特に株式市場にも影響が及びます。過去に日銀の金融緩和策が株価を支えた歴史がありますが、利上げは通常、金融引き締めとされ、市場に流通する資金量を減少させます。これにより、株価の動向にも変動が生じる可能性があります。

為替への影響

外国為替市場においては、円高ドル安が進むという見方があります。これまで日本とアメリカの金利差が円安ドル高を進めてきましたが、日銀が利上げを行い、FRBが利下げに転じると、金利差が縮小し、円高が進むことが予想されます。

今回のマイナス金利解除には裏がある!?

通常、この物価上昇率2%の目標を大きく上回る見込みがある場合、金融政策を変更することが考えられます。しかし、今回の日本銀行の決定は、物価が目標どおりに上昇しているにも関わらず、金融政策を変更するというものです。これは少し異例のことで、専門家の間でも意見が分かれています。

金融政策には、大きく分けて二つの方向性があります。一つは金融機関を中心とした政策、もう一つは労働者や中小企業を支援する政策です。今回の日本銀行の決定は、金融機関を主に考えたものと言えるでしょう。これには賛否両論があり、金融機関に偏った政策との指摘もあります。

金融政策決定のルールと情報管理

金融政策決定会合には、非常に厳しい情報管理のルールがあります。例えば、決定が公表される前の一定期間、関係者はマスコミとの接触を控えなければなりません。このルールは非常に重要です。

もし関係者が会合の内容を事前に外部に漏らすと、その情報を元に金融機関が大きな利益を得ることが可能になります。これは、事前にレースの結果が分かっている馬券を購入するようなものです。数十億円もの利益が動くことがあります。

法律上、このような情報の漏洩はインサイダー取引にはならないかもしれません。しかし、株価に関する情報の漏洩と同様に、金利の情報も非常に重要です。

金利と債券価格の関係性

まず、金利が上がると債券の価格が下がるという関係性について説明します。金利が上昇すると、新しく発行される債券はより高い利息を提供します。そのため、既存の低金利の債券は魅力を失い、価格が下がります。

この金利の変動を事前に知ることができれば、安い時に債券を買い、金利が上がって価格が下がった時に売る、といった先物取引で利益を得ることが可能です。しかし、このような取引は市場の公平性を損ねるため、行ってはいけません。

今回、日本銀行は金利に関する重要な情報を公表しましたが、それがマスコミによって広く報道されてしまいました。このことは、金融機関への配慮から情報がリークされたと考えられています。金融機関が利益を得やすい情報が公になったことは、市場の公平性に影響を与える問題です。

実際、マイナス金利解除を発表した19日、債券価格は下落しています。

解除による経済への影響

日本銀行がこれらの政策を解除すると、経済にいくつかの変化が起きます。マイナス金利が適用されていたお金(約30兆円)に対し、中央銀行はこれまで支払われなかった利息(例えば300億円)を得ることができるようになります。

企業の運転資金に関連する短期金利が上昇すると、企業の負担も増えます。これは、企業が必要な資金を短期間で借り入れる際のコストが上がることを意味します。また、住宅ローンの変動金利も変わる可能性があります。これは、短期プライムレート(短期金利)に連動しているためです。住宅ローンの総額が約150兆円で、その約7割が変動金利であれば、100兆円程度のローンが影響を受ける可能性があります。

現政権下での日本銀行の動きとその影響

日本銀行が最近、特定の方針を採用した背景には、政治の影響が大きいと考えられます。現在の岸田政権の下で、金融政策に関して十分な調整が行われていないとの指摘があります。この結果、日本銀行はかなり自由に行動できる状態になっており、特に金融機関を優遇する方針が取られていると見られています。

日銀の金融政策に関する重要な情報がマスコミを通じて漏れることがあり、その結果として、金融市場に大きな影響を与えています。特に、金融機関への情報リークは、市場の公平性を損なう恐れがあります。

情報リークの影響は為替市場にも及んでいます。円安の動きに対する先行情報がリークされた結果、市場が反応し、一時的な円高やオーバーシューティング(市場反応の過剰化)が発生しました。これは、市場参加者が情報を事前に織り込んで行動した結果です。

現政権下での金融政策の方向性が、適切な経済調整とは異なる方向に進んでいるとの声があります。特に、日銀が金融機関に利益をもたらす方針を取りがちであることが指摘されています。

金利政策の「正常化」について

金利の「正常化」とは、経済全体を安定させるための手段です。ただし、金利を上げること自体が目的ではありません。通常、金利政策は経済の動向に少し遅れて反応することが基本です。例えば、アメリカではインフレ率が5%に達してから金利を引き締めることが多いですが、日本では物価上昇率が2%になっただけで金利政策を変更する傾向があります。

まとめ

今回のマイナス金利解除の話は、賛否が分かれていますが、タイミングは今はまだ早すぎたのではないかという見解が強いです。これには政治の裏で動く黒い話も大いに関係してそうです。

金利は株式投資や経済を理解するのに欠かせない知識ですので、ここでしっかり学んでおきましょう!

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この記事を書いた人

株式会社シュタインズ
「テクノロジー×教育の研究開発」を事業の基盤に、現在は金融教育サービス事業「Moneychat(http://moneychat.life/)」の企画と開発を進める。

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