こんにちは!!
企業の価値評価にはいくつかの方法があり、その中でも代表的な手法の一つが「DCF法」です。
DCFは「Discounted Cash Flow」の略で、一般的には「割引キャッシュフロー法」と呼ばれます。この方法は、事業が生み出す期待キャッシュフロー全体を割引率を用いて現在価値に換算し、それによって企業の価値を評価する手法です。
今回は、DCF法の基本をわかりやすく解説し、簡単なケーススタディを通じてさらに深く学んでみましょう。
- DCF法の基本
- DCF法の計算方法
- フリーキャッシュフロー
- 企業価値算定の実例(ケーススタディ)
DCF法の基本とは
DCF法(Discounted Cash Flow法)は、企業の価値を評価するための方法の一つです。
この方法では、企業が将来生み出すであろうキャッシュフロー(現金の流れ)を、適切な割引率を用いて現在価値に換算し、それらを合算することで企業の価値を算出します。
株式投資を始めると、よく聞く言葉に「PBR」があります。
PBRは、株価が企業の資産価値に対してどの程度高いか低いかを示す指標で、株式の割安性や魅力度を判断する際に重要な役割を果たします。PBRについては別の記事で解説していますので、そちらをご覧ください!
DCF法の式
具体的なDCF法の式は以下の通りです。
企業価値 = 企業が将来生み出すフリーキャッシュフローの期待値を、加重平均資本コスト(WACC)で割り引いた現在価値
「事業が生み出すキャッシュフロー」とは、最終的に「債権者と株主に分配可能なキャッシュフロー」のことを指します。
一般的には「フリーキャッシュフロー」と呼ばれています。ただし、フリーキャッシュフローという言葉は、株主に分配可能なキャッシュフローのみを指す場合もあるため、注意が必要です。
フリーキャッシュフローとは
企業の価値を評価する際、フリーキャッシュフロー(FCF)は非常に重要です。フリーキャッシュフローは、企業が税金を支払い、必要な投資を行った後に、債権者と株主に分配可能なキャッシュフローのことを指します。
フリーキャッシュフローの計算式
フリーキャッシュフローは以下の式で計算されます。
フリーキャッシュフロー = 営業利益 × (1 – 法人税率) + 減価償却費 ± 運転資本増減額 – 設備投資額
この式からわかるように、フリーキャッシュフローは営業利益から法人税を差し引いた純利益に減価償却費を加えたものです。その後、運転資本の増減額を調整し、設備投資額を差し引いて計算します。
フリーキャッシュフロー計算のポイント
フリーキャッシュフロー計算に際しては、以下のポイントに留意する必要があります。
- 支払利息: 企業価値を算出する際、支払利息は差し引いてはならない。企業のキャッシュフロー全体を考慮する必要があるため。
- キャッシュフローへの加算: 減価償却費などの現金支出を伴わない費用は、キャッシュフローに加算する。
- 資本コストでの調整: 法人税は投資家には還元されないため、実際の税額を引くのではなく、営業利益に(1 – 法人税率)をかけて算出する。また、負債がある場合、支払利息の税金節税効果を考慮し、資本コストで調整する。
上記のポイントを考慮して、DCF法によるキャッシュフロー計算を行うことが重要です。
キャッシュフロー計算書の情報しか得られない場合でも、公式を使用してフリーキャッシュフローを算出することが可能です。ただし、株主と債権者に分配されるキャッシュフローである「利息の支払額」を控除する前の金額であることに留意する必要があります。財務諸表分析で使われるフリーキャッシュフローの定義とは微妙に異なることにも注意が必要です。
資本コスト: DCF法における重要な要素
割引率はDCF法において不可欠な要素であり、将来のキャッシュフローを現在価値に割り引くための指標です。
企業価値を計算する際、通常、加重平均資本コスト(WACC)を用いて割引率を決定します。WACCは、株主資本と負債資本のコストを平均したもので、企業の資本コストを示します。
DCF法では、割引率としてWACCを使用します。これは、分子に「株主に帰属するキャッシュフローと株主債権者に帰属するキャッシュフローを合算したもの」を持ち、分母には「株主と債権者が要求する収益率を合算した総資本コスト」があります。このため、WACCを用いることが適切です。
DCF法における企業価値の計算式は以下の通りです。
- フリーキャッシュフローが一定(ゼロ成長)の場合: 企業価値 = フリーキャッシュフロー ÷ 加重平均資本コスト
- フリーキャッシュフローが定率成長の場合: 企業価値 = フリーキャッシュフロー ÷ (加重平均資本コスト - フリーキャッシュフロー成長率)
割引率の正確な決定は企業価値評価において重要です。資本コスト、特にWACCの適切な計算は、正確な評価を行うために欠かせません。
企業価値・株式価値の理解
企業価値評価の代表的な手法であるDCF法に加えて、株式価値と負債価値を別々に評価し、それらを合計する「フローアプローチ法」が存在します。
企業は株主と債権者から提供された資金を用いて事業を展開し、事業が生み出すキャッシュフローは株主と債権者に分配されます。この手法では、株主に帰属するキャッシュフローと債権者に帰属するキャッシュフローを別々に計算し、それらを合算するアプローチをとります。
ちなみに、BPSは、会社の純資産(資産から負債を引いたもの)を発行済み株式数で割ったもので、会社の財務状況や株式の割安度を判断するのに役立ちます。こちらも別の記事で解説していますので、ぜひご覧ください!
フローアプローチ法による企業価値評価は以下の通りです。
企業価値 = 株式価値 + 負債価値
具体的な手法として、株式価値の評価には配当割引モデル(DDM)、株式価値評価DCFモデル、残余利益モデルなどが存在します。ここでは、代表的な評価方法の一つである定率成長配当割引モデル(DDM)を紹介します。
定率成長配当割引モデル(DDM) 株価 = 1期後の配当 ÷ (割引率 - 配当成長率)
一方、負債価値の計算は、債権者に帰属する期待キャッシュフロー(支払利子)を債権者の要求収益率で現在価値に割り引くことで行います。
注意すべきは、「企業価値」と「株式価値」の用語がしばしば混同されることです。
株式価値は株主に帰属するキャッシュフローを基に計算されるのに対し、企業価値は株式価値だけでなく、負債価値、つまり負債債権者に帰属するキャッシュフローも含めた価値を示します。この違いに留意することが大切です。
ケーススタディ:企業価値算定の実例
これから、これまで説明した企業価値算定の手法を、具体的なケーススタディを通じて理解していきましょう。我々は、フローアプローチ法とDCF法の2つの異なる方法を用いて企業価値を算出し、その一致性を確認します。
ケーススタディ例:
- 営業利益は毎年一定
- 負債利子率は4%で毎年一定
- 負債も一定額を保有し続ける
- 税引前利益は税金が配当される前提
- 減価償却費 = 設備投資額
- 運転資本増加額 = 0
- 法人税率は40%
- 株主資本コストは10%で毎年一定
(単位:億円)
- 営業利益:100
- 負債利子:20
- 税引前利益:80
- 法人税:32
- 税引後利益:48
それでは、このケースにおける企業価値を計算してみましょう。
ステップ1: 株式価値と負債価値を計算する
株式価値は、税引後利益(配当額:48億円)を株主資本コスト(10%)で割り引くことによって求められます。
株式価値 = 48億円 ÷ 10% = 480億円
負債価値は、負債利子(20億円)を負債利子率(4%)で割り引いて計算します。
負債価値 = 20億円 ÷ 4% = 500億円
この段階で、フローアプローチ法に基づき、企業価値は株式価値と負債価値の合計として計算されます。
企業価値 = 480億円 + 500億円 = 980億円
練習として、DCF法でも同じ結果を得るためにステップ2から進みましょう。
ステップ2: 加重平均資本コスト(WACC)を求める
WACC(加重平均資本コスト)は、負債利子率(4%)と株主資本コスト(10%)を、それぞれの資本額に応じて加重平均することで計算されます。
WACC = (500億円 ÷ 980億円)× 4% ×(1 – 40%) +(480億円 ÷ 980億円)× 10% ≒ 6.12%
ステップ3: フリーキャッシュフロー(FCF)を求める
FCF(フリーキャッシュフロー)は、営業利益に法人税を差し引いた金額に減価償却費を加え、運転資本増加額と設備投資額を差し引いて計算されます。
ただし、この例では減価償却費と設備投資額が同じで運転資本増加額が0であるため、以下のように計算できます。
FCF = 営業利益 × (1 – 法人税率) = 100 ×(1 – 40%) = 60億円
ステップ4: 企業価値を求める
企業価値は、FCFをWACCで割り引いて計算されます。
企業価値 = 60億円 ÷ 6.12% ≒ 980億円
以上の例から、フローアプローチ法とDCF法の両方によって、企業価値が980億円であることが確認できました。
まとめ DCF法
ここまで企業価値算定の代表的な手法であるDCF法について詳しく見てきましたが、いかがでしたか?
実際の企業の価値を評価する際には、将来のフリーキャッシュフローをどのように見積もるか、割引率である資本コストをいくらと見なすか、成長率をどのように見込むかなど、多くの不確実な要素に対して確からしい仮定を置きながら計算を行います。これが、やや複雑に見えるかもしれません。
しかし、この計算のアプローチは、前述の通りにシンプルな論理に基づいています。したがって、これらの計算に恐れる必要は全くありません。計算は不確実性を扱うためのツールであり、正確な評価を行うためには慎重な分析と専門的な知識が必要ですが、基本的なアイディアは誰にでも理解できるものです。
企業価値評価は、経済やファイナンスにおける重要な概念であり、投資判断や経営戦略において役立つ価値の評価方法の一つです。この知識を活用して、賢明な経済的な意思決定を行うのに役立てていただければ幸いです。