人はなぜ限定商品や行列に弱いのか? 非合理的な消費行動を「行動経済学」で解説

「今だけ50%OFF!」や「期間限定!」といった言葉に心が揺れて、つい財布のひもをゆるめてしまったり、必要以上にものを買ってしまった経験、ありませんか? こうした行動は、多くの人が一度は経験していると思います。なぜ私たちは時々、非合理的なお金の使い方をしてしまうのでしょうか?

実は、こうした「なぜ?」を解き明かすために、「行動経済学」という学問があります。この学問では、私たちがどのようにお金を使うか、どんな心理で消費行動を取るかを研究しています。

行動経済学を知ることで、私たちが感情や心理に流されず、もっと合理的にお金を使うコツがわかるようになります。

以下のように文章を修正し、よりわかりやすく解説します。

目次

人間の非合理性を研究する行動経済学とは ?

まず、「行動経済学」という言葉を聞いたことがない方のために簡単に説明します。

一般的な「経済学」は、人々がいつでも合理的に物事を考え、最適な選択をするという前提で成り立っています。しかし、現実では感情や心理に左右されて、つい非合理的な行動をとってしまうことがありますよね。たとえば、セールで必要のないものを買ったり、貯金を崩してつい贅沢をしてしまったりといった行動です。

行動経済学は、こうした人間の「ついやってしまう」行動に注目し、経済や社会の中で人々がどのように行動するのかを観察・分析する学問です。いわば「経済学」と「心理学」を組み合わせたものです。

この行動経済学を広く知らしめたのが、心理学者であり行動経済学者でもあるダニエル・カーネマンです。彼は2002年に「プロスペクト理論」という理論でノーベル経済学賞を受賞し、この分野は一気に注目されるようになりました。企業もいち早く行動経済学を活用し、消費者の心理を読み解いて商品の販売に役立てるようになったのです。

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行動経済学は「なぜ人は時々、非合理的な行動をしてしまうのか?」を研究対象としています。今回は、その中でも特によく見られる2つの行動パターンを紹介します。

非合理的な行動の例

  1. やったほうがいいとわかっていてもやらない、やると後悔するのにやってしまう
    • 例:翌朝後悔することがわかっているのに夜食を食べ過ぎる、貯金しなければと思っているのに無駄遣いしてしまう。
    • これは「双曲割引」という理論で説明できます。遠い将来なら待てるのに、近い将来だとつい目先の利益を優先してしまうという考え方です。
  2. 無意識に間違った理解で意思決定してしまう
    • 例:サプリメントの広告が「30錠入り2,400円」と書いてあるとあまり売れないが、「1日たった80円」と書くとよく売れる。
    • これは「フレーミング効果」と呼ばれます。同じ内容でも、伝え方や表現を変えるだけで、受け手の印象が大きく変わるというものです。

これらの理論は、「つい無駄遣いしてしまう」「広告に影響されて買い物してしまう」など、私たちの日常の行動を説明するのに役立ちます。

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得より損を気にする心理・非合理性バイアスとは?

理論では説明できない、人間の「ちょっと不思議な行動」を理解するカギが「非合理性バイアス」です。では、この「非合理性バイアス」とは一体何でしょうか?

非合理性バイアスとは?

非合理性バイアスとは、理論上は説明できない、人の心理や感情によって起こる思考の偏りや行動のことを指します。私たちは日常生活でよく「得よりも損をしたくない」と感じたり、同じ内容でも表現が違うと印象が変わったりします。これらの行動は、合理的な判断ではなく、心の中で起こるバイアス(偏り)によって引き起こされているのです。

「バイアスとは、理論的には説明できない、心の錯覚のようなものです。なぜ私たちがこうした錯覚を起こすのかは、簡単には説明できません。だからこそ、これは『バイアス』なのです。」

なぜ人は合理的に考えられないのか?

その理由の一つに、「そもそも人間の知識や計算能力、物事を認識する力には限りがある(限定合理性)」という考え方があります。これは、1978年にノーベル経済学賞を受賞したハーバート・A・サイモンが唱えたものです。彼は、「私たち人間はすべての情報を正確に理解して判断することは難しい」と指摘しました。

行動経済学における主な理論

私たちがついやってしまう非合理的な行動には、実は行動経済学で説明できるさまざまな理論が関係しています。ここでは、特に代表的な6つの理論を紹介します。どれか1つは、きっと心当たりがあるのではないでしょうか?

1. サンクコスト効果

「せっかくだから」「もったいないから」と、すでに支払ったお金や時間にとらわれてしまう心理のことです。例えば、バイキングレストランでついつい食べ過ぎてしまうことや、途中まで集めたコレクションを「せっかくだから全部集めたい」と思ってしまうのがこの効果です。

2. プロスペクト理論

不確実な状況で人々が「損失を避けよう」とする習性を指します。また、確率を歪んで認識してしまうことも含まれます。たとえば、当たる確率がとても低い宝くじに期待して購入してしまったり、株式投資で損を出したくない気持ちから、タイミングを逃してしまうことなどがこの理論で説明できます。

3. アンカリング効果

最初に提示された数字が頭に強く残り、その後の判断に影響を与えることです。「通常価格10万円の商品が、今なら5万円!」と言われると、最初に提示された10万円が基準となり、実際よりも5万円がお得に感じてしまうのがこの効果です。

4. バンドワゴン効果

「みんながそうしているから自分も」という心理です。多くの人が選んだものが、実際よりも価値が高く見えてしまいます。たとえば、「販売部数10万部突破!」というキャッチフレーズに引き寄せられて本を買ってしまったり、行列のできているラーメン店に興味を持つことなどがこの効果です。

5. フレーミング効果

同じ内容でも、伝え方や表現方法を変えるだけで、受け手の印象が大きく変わるというものです。例えば、「ビタミンC 1g配合」と「ビタミンC 1,000mg配合」では、どちらも同じ量ですが、「1,000mg」と言われた方が多く含まれているように錯覚してしまいます。

6. デフォルト効果

最初に与えられた設定に強く影響されることです。例えば、自動車の購入時に「おすすめのオプション」がセットでついていると、それをそのまま受け入れてしまったり、会員登録時にデフォルトでチェックされているメルマガ配信をそのまま受け入れてしまうのが、この効果の一例です。

単なるエピソードをエビデンスと錯覚しがちに

上で紹介した事例は、少し落ち着いて考えれば錯覚に気づけるものばかりです。

これらの『消費者あるある』を事例として挙げるのは簡単ですが、実はそれほど問題になるとは思えません。たとえば、フレーミング効果やデフォルト効果は強力な現象として有名ですが、少し冷静になれば対処できるからです。

厄介なのは、考えてもなかなか理解しづらい錯覚が存在することです。

例えば、新型コロナウイルスに感染している人の80%は咳の症状があるとしましょう。この条件下で、咳をしているお客様が来店しました。そのお客様がコロナ患者である確率は何%だと思いますか?

直感的には「80%くらい」と考えがちですが、実はこれを論理的に答えるのは難しいのです。正しい答えを導くには、次のような追加情報が必要です。

  • 日本の総人口に占めるコロナ感染者の割合
  • 非感染者が咳をする確率

仮に日本の総人口を1億人、コロナ感染率を1%とします。また、感染していない9,900万人のうち、約9.6%(950万人)が通常でも咳をすると考えましょう。この場合、咳をしている人が実際に新型コロナに感染している確率は、約7.8%にしかなりません。これは最初の印象とは大きく異なり、非感染者が咳をする確率よりも低いのです。

咳をしている人が感染者である確率を求めるには?

  • 直感的な判断(誤り):感染者の中で咳をしている人の割合
  • 正しい確率:咳をしている感染者 ÷ (咳をしている感染者 + 咳をしている非感染者)

このように、正しい数字を使って説明されるまで、私たちは直感的に理解するのが難しく、錯覚に陥りやすいのです。

この現象を「基準確率の錯誤」の一例です。「エピソード(事実)」と「エビデンス(証拠)」の違いや、科学的な論証を理解するのは簡単ではありません。だからこそ、こうした誤りを防ぐためにはどうすればよいのでしょうか。

現実的な対応策として、身近な家族や友人に相談し、その意見に素直に耳を傾けるのが有効です。これで『消費者あるある』による錯覚をある程度防ぐことができるでしょう。

以下のように修正しました。


投資の心得を行動経済学から学ぶ

行動経済学で使われる「非合理性バイアス」は、投資家の行動や意思決定を理解するためにも応用されています。それが「行動ファイナンス」という考え方です。

「アノマリー(注)」と呼ばれる金融市場の現象があります。これは、伝統的な金融理論では説明できないものばかりでしたが、行動経済学の登場によって理解が進んだのです。それにより、行動ファイナンスが注目されるようになりました」(井澤教授)

(注)アノマリー:金融市場で起こる変則的な動きで、明確な理論や根拠はないものの、経験的に起こりやすい現象を指します。たとえば「1月効果」「5月に売り逃げろ(Sell in May and go away)」「曜日効果」などが有名です。効率的市場仮説では説明しにくい動きがこれに該当します。

投資家は時折「非合理性バイアス」によって非合理的な投資行動を取ることがあります。

「たとえば『株価が下がったからまた上がるかもしれない』と根拠なく期待し、損失の出た資産を売却せずに持ち続けてしまうことや、『株価はこれ以上上がらないかも』と考えて、利益の出た資産を早く売却してしまうことがあります。こうした心理的な要因から、投資家は非合理的な行動を取ってしまうのです。その結果、購入や売却のタイミングを見誤り、損失につながることもあるのです」

これは、行動経済学者ダニエル・カーネマンが提唱した「プロスペクト理論」で説明できます。プロスペクト理論によれば、投資家は利益よりも損失に対して敏感です。利益が出ている場合、損失を避けようと利益確定に走りやすい一方、損失が出ている場合は、それを取り戻そうとしてさらにリスクの高い判断をしてしまう傾向があります。

投資家が非合理的行動を取る理由

合理的な投資を行うには、リスクとリターンについての確率を伴う意思決定が必要です。しかし、人間は確率を認知することがとても苦手です。リターンの正確な数値は投資の結果が出てからでないとわかりません。また、リスクとリターンの関係を事前に予測するのは非常に難しいのです。

たとえば、投資信託Aの1年後のリターンが5%、投資信託Bの1年後のリターンが7%だったとします。一見、Bを買ったほうがよかったように思えますが、実はBのリスクが非常に高く、そのリスクに見合ったリターンは本来10%であるべきだったのかもしれません。事前にこうしたリスクとリターンを予想するのは簡単ではないのです。

リスクを考えず、リターンだけで投資のパフォーマンスを評価するのは、投機やギャンブルと同じです。実際にアメリカのデータを使った研究では、個人投資家と機関投資家のパフォーマンスの差は『損切り』ができるかどうかにあるとされています。

これは、一般に「ディスポジション効果」と呼ばれるものです。含み益が出るとすぐに売却し、含み損が出ると損切りできない傾向のことです。ディスポジション効果を避けるのはプロの投資家でも難しく、現在のコンピューターの計算能力をもってしても解明できないものです。

非合理的なリスクを避けるための心得

では、こうしたバイアスによるリスクをできる限り回避するために、投資家はどのようなことを心がければよいのでしょうか。

個人投資家でも、このバイアスを防ぐためには、あらかじめ売買のルールを決めておくことが有効です。たとえば、売買の指値を事前に設定し、到達したら自動的に売買する方法を利用すること。また、定期的に自動で積み立てる設定のある金融商品を活用するのも一つの手です。

最も重要なのは、自分が何のためにどの資金を使って投資をしているのかを見失わないことです。投資しているのが生活資金なのか、教育資金なのか、住宅資金なのか、それとも余裕資金なのか。目的をしっかり意識すれば、投資の方針も定まり、後悔の少ない投資ができるでしょう。

まとめ 人はなぜ限定商品や行列に弱いのか?

行動経済学を学ぶことで、「消費者あるある」の錯覚に気づき、避けることはできるかもしれません。しかし、投資における非合理的な行動を防ぐのは、プロでも難しいものです。そこで、投資家にとっては、まず目的を明確にし、売買ルールをしっかり設定することが大切です。何から始めてよいか迷う場合は、定期的に自動で積み立てられる「積立投資」から試してみるのもよいでしょう。

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この記事を書いた人

株式会社シュタインズ

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