
※本記事は情報提供を目的としたものであり、投資判断を促すものではありません。最終的な判断はご自身の責任で行ってください。
読み終わる頃には、昨日までの投資常識が 180°ひっくり返るかもしれませんよ!
1980 年代初頭のボルカーショック以降、米国を中心とした先進国の長期金利は約40年近くにわたっておおむね右肩下がりを続けてきました。
金利が下がると企業が将来稼ぐキャッシュフローの「割引率」が下がるため、株価の評価倍率(PER=株価 ÷ EPS)が自然に押し上げられます。
この環境では EPS(1 株当たり利益)が横ばいでも、PER の上昇だけで株価が上がることさえ起こりました。積立投資家はこの恩恵をたっぷり受け、「放っておいても資産が増える」という成功体験が大量に生まれたのです。
しかし 2020 年、新型コロナショックからの急回復とインフレ再燃をきっかけに、長期金利は半世紀ぶりに上昇トレンドへ反転しました。
米 10 年債利回りは 2020 年夏の 0.5%台から 2024 年終盤にかけて 5%弱まで急伸し、40 年の“ぬるま湯”は突如として沸騰した浴槽へ変貌。PER を膨張させていた浮力が一転、マルチプル・コントラクション(倍率収縮)として投資家を押しつぶし始めています。
本稿では、
- PER と金利が株価をどう決めるのか という原理原則
- 長期金利サイクル 60 年説 と今後 15 年の展望
- 積立投資の代名詞 ドルコスト平均法(DCA)の“落とし穴”
- それでも私たちが取れる 現実的な戦略
を初心者でも腑に落ちるように徹底解説します。
- 金利は 40 年ぶりに上昇トレンド。
- 株価の公式は EPS × PER。金利が PER を押し潰すので、利益が伸びても株価が伸びない時代が来る。
- 積立投資(DCA)は万能ではない。利上げ局面では評価損を 7〜10 年抱える覚悟が必要。
- 専門家の8割が悲観。でも“まだ間に合う”サバイバル術がある。
株価は「EPS × PER」で決まる
EPS(Earnings Per Share)は当期純利益を発行株式数で割ったものですが、
- 利益の質(Quality of Earnings):一過性の特損益や会計基準変更が入り混じる
- 希薄化リスク:新株発行やストックオプション行使で分母が膨らむ
- 自社株買いの魔法:利益成長ゼロでも発行株数を 5%減らせば EPS は 5%増
といった要素に左右されます。



初心者はここを見落としがちなのだ!
わかりやすく単純化すると、EPS(1 株利益)はケーキの大きさみたいなものと想像してください。
- EPS=当期純利益 ÷ 発行株式数
- 利益が増えればケーキは大きくなるが、株式数が増えれば1 切れが薄くなる。
この場合、利益 100 億円、株数 10 億株ならば、EPS=10 円。
もし新株発行で株数が 12 億株になれば、EPS は 8.3 円に薄まりますよね。
そして、PER は将来成長期待と金利で決まります。PER 15 倍なら「今年1株あたり1ドル稼ぐ企業に 15 ドル払う」ということです。
つまり、
- 企業が1株あたり $1 の純利益を上げている(EPS = $1)
- 株価が $15 である
- よって、PER = 株価 ÷ EPS = 15
PER=株価/EPS は一見シンプルですが、買い手が払う倍率には以下 3 つの期待が折り重なっています。
- 利益成長期待(g):企業が将来どれだけ稼ぎを増やせるか
- 資本コスト(r):無リスク金利+リスクプレミアム
- 競争優位の持続性(MOAT):参入障壁やブランド力がどれだけ長く続くか
ここで 割引率 r に最も大きく効くのが「長期金利」です。 r が上がる(金利上昇)と、たとえ g が高くても PER 全体は収縮します。
金利が 1% → 3%に上がると、20 年先の 1 ドルの現在価値は 0.82 ドル → 0.55 ドルへ 33%も減価します。結果として合理的な PER の上限が下がります。つまり「金利↑→PER↓」という逆相関が生まれる。
つまり、株価は将来の配当やフリーキャッシュフローを金利で割り引いた総和でもあるのです。
- 今すぐ 1,000 円を受け取る
- 30 年後に 1,000 円を受け取る
金利 1%→5%で、あなたならいくら払いますか?
金利と PER はなぜ逆相関なのか
一般的な投資判断指標を用いると、N年後に受け取る現金、つまり将来キャッシュフロー(FCF)の現在価値は
PV=FCF ÷ (1+r)^n
PV: 現在価値, r: 割引率
で決まります。



数式が出てきて少し難しいと思うかもしれないけど、つまりは、10年後とか将来もらえる100万円は、現在の価値ではいくらになるの?というのを計算する式と理解しておけば十分なのだ!
この考えに則ると、たとえば 20 年後に 1,000 円を受け取る場合、
金利(r) | 20 年後 1,000 円の現在価値 | 目減り率 |
---|---|---|
1 % | 約 820 円 | −18 % |
4 % | 約 456 円 | −54 % |
金利が 3 % 上がるだけで価値は ほぼ半分になります。これが PER を押し潰す理論的なメカニズムです。
データが示す PER 収縮の衝撃
- S&P500 のフォワード PER
- 2021 年 1 月:22 倍
- 2025 年 4 月:19 倍(FactSet)
↳ 3 倍分の縮小(▲14 %)は、EPS 成長 14 % が帳消しになるインパクトと同じ。
- コロナ後バブルの揺り戻し
2020〜2021 年に PER は 26 倍まで膨らみ、翌年 19 倍へ正常化しただけで指数は▲27 % 下落した。 - IT バブル崩壊時(2000〜2002 年)
PER 24→14 倍(▲42 %)、EPS も▲30 %。株価は▲49 %のダブルパンチ。



PER 収縮は EPS 成長より速い。 だから「利益は伸びているのに株価は下がる」現象が起きるのだ!
景気減速局面で EPS 成長率も鈍化すると、PER↓ × EPS↓ で株価は雪崩を打ちます。逆に EPS が伸びても PER↓がそれ以上なら株価は上がりません。
60 年サイクルで読み解く長期金利
そもそも長期金利とは、10年〜30年などの長期の国債に対する金利のことです。
これは、ざっくり言えば「将来の物価(インフレ)と景気への期待を反映したもの」です。
- 景気がよくなりそう → 企業や政府がたくさんお金を借りる → 金利が上がる
- インフレが進みそう → お金の価値が下がる → 今お金を貸すなら高い利子が必要 → 金利が上がる
金利の動きには「サイクル(周期)」があると言われます。
その中のひとつが、コンドラチェフ波(50〜60年の周期) です。
これは、ロシアの経済学者コンドラチェフが提唱した「技術革新や経済構造の変化は、約50〜60年で繰り返す」という考え方です。
例:
- 産業革命(1800年代)
- 蒸気機関から電気へ(1900年頃)
- コンピュータとインターネット(1950〜2000年)
- AI・脱炭素・軍事再編(今〜未来?)
これらの大きな変化は「資金需要=お金を借りたい人」を増やし、金利を押し上げる力になります。
2020年を底(最低金利)とすると、以下のような要因で今後金利が上がりやすいとも言われています。
要因 | 金利に与える影響 |
---|---|
米国の財政赤字拡大 | 国がたくさんお金を借りる → 借金が増えると金利が上がりやすい |
脱炭素や防衛投資 | 工場や軍事への投資が増える → 実物資本への需要が増加 |
労働力不足 | 人件費が上がる → インフレになりやすい → 金利が上がる可能性 |
金利の正常化 | コロナ後の超低金利政策からの脱却中 |
この理論に則ると、1981 年を山、2020 年を谷とすれば、2040 年前後まで上昇トレンドが続く可能性が高いです。
人口動態的にもインフレ圧力が収まるのは 2030 年代後半との試算。金利の“冬”はまだ始まったばかりというのが悲観的ベースラインです。
とはいえ、「金利が2040年までずっと上がる」と断言するのは危険です。
なぜなら、途中で、
- テクノロジーが急進してコストが大幅に下がる
- 世界的な景気後退が起きる
- 戦争や金融危機が起こる
などの可能性があるからです。
マルチプル・コントラクションの実例と数値インパクト
マルチプル・コントラクションとは、一言で言うと、「割安になっただけで株価が下がる現象」のことです。
たとえば、ある企業が年間1株あたり100円の利益(EPS)を出していて、その株価が2,000円なら、PERは20倍ですよね。
- PERが高い → 投資家の期待が高く、割高とされる
- PERが低い → 投資家の期待が低く、割安とされる
もし投資家たちが「最近ちょっとこの株、高すぎるな」と思ってPERが15倍まで下がれば、
株価=EPS×PER=100円×15=1,500円
つまり、EPS(利益)は変わらないのに、PERが下がっただけで株価は25%下がるのです。
2020年~2021年、新型コロナによる経済支援や金融緩和で株式市場は大きく上昇しました。
この期間、S&P500(アメリカの代表的な株価指数)のPERは一時26倍にまで上がり、非常に割高な状態(バブル状態)となりました。しかし、その後PERが19倍まで低下(マルチプル・コントラクション)すると、指数(市場全体の株価)が約27%下落しました。
つまり、
PERが高すぎる → 調整(マルチプル・コントラクション)が起きる → 株価が下落する
このような場合、一般にグロース株はPERが高い場合が多いので、そのような高PER株ほど苦戦すると言われています。
ITバブル崩壊との比較(2000年頃)
2000年のITバブルでは、PERが24倍から14倍まで大きく低下しました。さらに、企業の収益(EPS)も30%低下したため、株価は約49%も下落しました。
- PERが下がる(投資家の期待が下がる)
- EPS(企業利益)も下がる
この2つが同時に起こると、当たり前ですが株価は大きく下落します。
今後5年間のシナリオ予想(2025~2030年)
今後の市場を考えるときには、以下の3つのシナリオが考えられています。
シナリオ | 長期金利 | EPSの年間成長率 | PER(評価) | 株価指数の動き | 状況 |
---|---|---|---|---|---|
強気 | 約3%(安定) | +8% | 21倍 | +35% | 景気が穏やかに成長 |
中立 | 約4〜5% | +6% | 17倍 | +0~10% | 成長と評価の低下が相殺 |
弱気 | 5%以上 | +4% | 14倍 | ▲20~30% | インフレと不況(スタグフレーション)の懸念 |
- 強気シナリオ: 経済が順調に成長し、投資家が安心してPERも高い状態を維持する。
- 中立シナリオ: 経済成長はあるが、金利がやや高くPERが下がり、成長が株価を支える程度。
- 弱気シナリオ: 高いインフレや金利上昇でPERが大きく下がり、景気の悪化が予想される。
ドルコスト平均法(DCA)の功罪を再点検
「ドルコスト平均法(DCA)」とは、株や投資信託などを定期的に一定額ずつ購入し続ける投資方法です。
価格が高いときは少なく、価格が安いときは多くの量(口数)を購入できるため、購入価格を平均化する効果があります。例えば、毎月1万円ずつ投資するといった方法です。
例:
- 毎月3万円をインデックスファンドに投資
- 株価が高い月:少ししか買えない
- 株価が安い月:たくさん買える
これにより、購入単価が平均化されて、暴落時のリスクを和らげられるという特徴があります。
ドルコスト平均法のメリットの落とし穴
ドルコスト平均法は、「価格が下がったときに多く買えるのでお得」とよく言われますが、実は必ずしもそうとは言えません。
なぜなら、その後の値上がり(リバウンド)が弱かったり遅かったりすると、損失がなかなか回復せず、投資が利益になるまで長い期間がかかってしまう場合があるからです。
実際、1970年代の米国株の例では、株価が下落してから元の利益水準に戻り、「ドルコスト平均法で利益が出るようになる」まで8年間もかかりました。



安い時にたくさん買えても、その後値段が十分に回復しないと、利益が出るまで時間がかかるのだ!
ドルコスト平均法の心理的な弱点
ドルコスト平均法のもう一つの問題は、心理面(メンタル面)です。
投資をしていると、購入した投資商品の評価額(時価)がマイナスになる(損失が出る)ことがあります。特に、長期間マイナスが続くと、不安になって投資を途中で止めてしまう人が出てきます。これを「ドロップアウト問題」と呼びます。
金融行動経済学の研究によると、人間は「利益を得る喜び」よりも「損失を避ける気持ち」のほうが強い(損失回避性)ことが分かっています。そのため、多くの人は3年以上も評価額がマイナスのまま回復しない状況に耐えられず、投資を止めてしまう傾向があります。
ドルコスト平均法を上手く使うための3つの条件
ドルコスト平均法を効果的に活かすには、以下の3つの条件を満たすことが重要です。
- 余剰資金で投資すること
- 生活費やすぐに必要になるお金で投資すると、損失が出た場合に精神的にも経済的にも負担が大きくなります。余った資金で長期的に投資できることが重要です。
- 15年以上の長期的な投資を考えること
- 短期間では市場の値動きにより損失が発生する可能性が高いですが、長期間続ければ市場が回復し、利益を生む確率が高くなります。最低でも15年以上続けられるような計画で行うことが理想的です。
- 成長が見込める投資対象を選ぶこと
- ドルコスト平均法は、長期的に成長する見込みがある対象に適しています。具体的には、人口が増えている国や地域、または技術革新(イノベーション)が盛んな産業に投資するのが有利です。これらの投資対象は、長期的に企業利益(EPS)が伸び、価格の上昇が期待できます。
株価が上がるときも下がるときも、感情に振り回されずに続けられるのが強み。
ただし、短期で結果を求めると失敗しやすい。15年単位で見ることが成功のカギです。



長期的に続けられる資金で、成長が期待できる投資対象を選ぶことがドルコスト平均法の成功ポイント!
初心者が取れる 5 つのリアルな対策
- セクター分散 ―― エネルギー・ヘルスケアのような金利影響が相対的に小さい分野を組み込む。
- バリュー株比率アップ ―― PER 15 倍以下&配当利回り 3%超を目安に選定。
- 海外債券・MMF で利息を稼ぐ ―― 金利上昇期は債券でも“利回りのツモ”が期待値を押し上げる。
- 積立額を可変にする ―― 金利が急騰し株価が急落したときのみ積立額を増やす「戦略的 DCA」。
- 損切りラインを明確化 ―― メガテックのような高 PER 株は 25 倍割れで一部利益確定、などルールを先に作る。
Q&A:よくある誤解
- EPS が伸びれば長期的に株価も伸びるのでは?
-
金利が一定ならその通り。ただし金利が 2% → 5%へ上昇すると PER が 20 倍 → 12 倍へ下がり、EPS 40%増では埋めきれない。
- インデックス投資なら気にしなくて良い?
-
市場平均でも PER は存在する。米国株インデックスが高 PER の IT セクター比率を 30%超抱える現状では、指数全体が金利リスクに晒される。
- 高配当株なら安全?
-
配当利回り 5%でも、金利が 6%なら相対魅力は低下。絶対値ではなくスプレッドで見る癖が重要。
おわりに ―― “長期”とは何年を指すのか
投資の世界で「長期」とは 10 年、20 年を指すことが多い。
しかし歴史を振り返れば、1966~1982 年の米国株は実質リターンがゼロだった期間もあります。金利サイクルというマクロを無視すると、個人投資家は自分の投資を過大評価しがちです。
最後に、次の 3 行だけ覚えてほしいと思います。
- 株価=EPS × PER。両方を見ないと未来は読めない。
- 金利は PER の“重力”。上がれば PER は下がる。
- 積立は万能ではない。金利上昇期ほど“時間”との勝負になる。
“ぬるま湯”から“沸騰”へ変わった市場で、あなたの資金とメンタルを守るのは 理解と準備 だけです。