脳の健康に関わる障害(精神障害、薬物依存、神経障害など)は、世界の病気による負担の約15%を占めています。これは、心臓病と同等の割合です。
さらに、これらの脳障害による損害は、世界経済に毎年約5兆ドル(約750兆円)の影響を与えており、2030年までにはこのコストが16兆ドル(約2,400兆円)に増加すると見込まれています。
しかし、多くの国々では、人々が十分な脳の健康サポートを受けられていません。マッキンゼー・ヘルスインスティテュートによる試算では、世界中で精神障害による負担が軽減されれば、年間で約130億年分の健康的な生活を取り戻し、1年あたり20万ドル(約3,000万円)の経済的価値を生み出すことができるとされています。
「ブレイン・エコノミー」という新たな経済モデル
脳の健康の重要性が認識される中、「ブレイン・キャピタル」(脳の力を高めて経済成長に活かす概念)と「ブレイン・エコノミー」(脳の健康がもたらす経済の成長や安定を目指す経済モデル)という考え方が注目されています。
認知力を向上させる政策や投資は、生産性や創造性を高め、柔軟で意欲的な人々を育て、経済の活性化にもつながります。
脳の健康への投資は幼少期から始めるべき
脳のシナプス(神経細胞間の結合)の半分以上は3歳までに形成されるため、この時期の刺激的な活動や適切な栄養摂取、社会的交流が大切です。
このような早期の投資が、認知的および感情的な発達の土台を築きます。また、脳が大きく発達するこの期間、摂取したエネルギーの75%が脳で使われているとも言われます。
一方で、精神障害や薬物依存症などの脳の健康リスクは若年層に集中しており、精神障害の75%が24歳までに発症します。家庭や学校、職場が、脳の成長を支える環境を提供することが重要です。
脳の健康を促進する社会的サポート
教育者や政策立案者は、幼少期から脳の健康を守る環境を整えることで、経済の成長につながる「ブレイン・エコノミー」を築くことができます。
例えば、基礎的な読み書きや数の概念を習得することは、コミュニケーションや問題解決のスキルの基礎となり、脳の発達にも良い影響を与えます。研究によると、公立の幼児教育を受けた子どもは、高校までの間に問題行動が減少し、卒業率も高くなることが示されています。
親や保護者も、肯定的な社会的・情緒的スキルを育むことで、子どもたちの脳の健康を支援できます。家庭での支援や安全で刺激的な環境は、子どもの社会的スキルや学習能力の向上につながります。
脳の健康への企業の取り組み
職場もまた、従業員の脳の健康を支える役割を果たしています。分析力や柔軟な思考力は、脳の健康を支える重要なスキルです。従業員の健康に投資することで、企業が生産性を向上させるだけでなく、世界のGDP(国内総生産)を最大12%引き上げる可能性があると考えられています。
健康な脳を育むための3つのステップ
現代の社会では、気候変動やメンタルヘルスの問題など、個人や社会全体が多くの課題に直面しています。これらに対応するためには、以下のような取り組みが必要です。
- 脳の健康を優先する投資
幼少期から生涯にわたり脳の健康に配慮した環境を整え、社会全体で神経多様性を尊重する文化を築きましょう。 - 予防、治療、回復をサポートする
効果的なプログラムを通じて、脳障害の予防と治療、回復のためのサポートを充実させましょう。 - ブレイン・キャピタルとブレイン・エコノミーの推進
すべての人が脳の健康に配慮し、世界経済の成長に貢献できる社会を目指しましょう。
これらの取り組みを通じて、私たちは一人ひとりが豊かな生活を送り、経済全体の成長に寄与できる未来を実現できます。