今月9日(2024年)に衆議院が解散され、15日には選挙戦がスタートしました。今回の選挙は短期間で行われますが、株式市場がこれまで選挙にどのように反応してきたかご存知でしょうか?
実は、過去のデータを振り返ると、選挙と株価にはある規則性が見られます。これを投資の世界では「アノマリー」と呼びます。
今回は、そのアノマリーについて、わかりやすく解説します。
アノマリーとは、株式市場でよく言われる「一定の条件のもと、特定の現象が起きやすい傾向」のことです。科学的な根拠が明確ではないものの、過去の経験やデータに基づく「株価の法則」とも言えます。選挙と株価のアノマリーは、その一つです。
選挙は本当に「買い」なのか?
「選挙は買い」というアノマリーは、選挙のタイミングで株価が上昇することが多いため、選挙前に株を買っておけば利益を得やすいという考えに基づいています。
しかし、このアノマリーが常に当てはまるわけではありません。ここでは、実際の選挙と株価の動きを見て、選挙が本当に「買い」なのかを探ってみましょう。
過去の選挙と株価の関係
過去の衆議院選挙における株価の動きには、上昇トレンドが確認できる例も多いです。
例えば、2012年12月の衆議院選挙では、自民党が政権を奪還し、アベノミクスと呼ばれる経済政策が期待されていたため、選挙前後で日経平均株価は大幅に上昇しました。選挙前の11月中旬には8,500円台だった日経平均株価は、選挙後に一気に10,000円台を突破し、その後も上昇が続きました。この時は「選挙は買い」が的中したと言えるでしょう。
一方で、2009年の衆議院選挙の際、民主党が大勝して政権交代が実現しましたが、この時の株価は選挙直後には一時的に上昇したものの、数か月後には再び下落する結果となりました。これは、民主党の経済政策に対する不安や、リーマン・ショック後の不透明な経済状況が影響したと考えられます。
選挙で株価が上がる理由
選挙前後に株価が上昇する理由はいくつかありますが、主な要因として以下が挙げられます。
- 新たな政策への期待感
選挙では新しい経済政策が提案されることが多く、特に減税や景気刺激策が発表されると、投資家は企業業績の改善を期待します。そのため、選挙前には株を買い込む動きが強まり、結果的に株価が上昇することがあります。 - 政治の安定による安心感
選挙によって政治が安定することが期待される場合、市場もそれを好意的に捉え、リスクが低下するため株価が上がりやすくなります。逆に、政権交代や急激な政策変更の不安があると、株価が下がることもあります。
アノマリーは絶対ではない
しかし、ここで注意したいのは、アノマリーはあくまで「傾向」であり、絶対ではないということです。例えば、選挙の結果が市場の期待とは異なる場合や、予期せぬ経済ショックが重なった場合、株価は逆に下落する可能性があります。
また、世界的な経済状況や地政学リスクなど、選挙以外の要因も株価に大きな影響を与えます。選挙が終わった後にどのような政策が実行されるか、そしてそれがどれほど経済にプラスに働くかも重要なポイントです。
選挙と株価の規則性を探る
これまで15回の総選挙を振り返ってみると、すべての選挙で日経平均株価が上昇しているという驚くべき結果が出ています。特に上昇率が高かったのは、2009年の民主党の大勝と、2012年の自民党が政権を奪還した際で、それぞれ12.1%、10.3%という大きな上昇率を記録しました。
「選挙は買い」というアノマリーは、こうしたデータを見る限り、少なくとも日本の選挙においては一定の信ぴょう性があると考えられます。しかし、なぜ選挙の時期に株価が上昇しやすいのでしょうか? いくつかの要因が考えられます。
(日経平均株価)
年 | 総選挙の結果 | % |
1979 | 自民党過半数を割り込む | 1.8 |
1980 | 自民党安定多数を超え大勝 | 1.2 |
1983 | 自民党大きく議席を減らす | 2.4 |
1986 | 自民党安定多数を大きく超え圧勝 | 5.8 |
1990 | 自民党議席減も安定多数確保 | 0.2 |
1993 | 非自民の細川連立内閣発足 | 2.0 |
1996 | 自民党議席増 | 0.7 |
2000 | 自・公・保与党、絶対安定多数確保 | 1.6 |
2003 | 自民党議席減 | 0.9 |
2005 | 郵政解散で自民党圧勝 | 7.9 |
2009 | 旧民主党大勝で政権交代 | 12.1 |
2012 | 自民党圧勝で政権を奪還 | 10.3 |
2014 | 自民党291議席で圧勝 | 0.4 |
2017 | 自民党 284議席で圧勝 | 5.9 |
2021 | 自民党議席減も絶対安定多数を確保 | 2.7 |
三井住友DSアセットマネジメントの資料を元に作成
なぜ選挙で株価が上がるのか?
- 経済政策への期待
選挙時には各政党がさまざまな公約や経済政策を掲げます。特に減税や景気刺激策など、投資家にとってプラスとなる政策が示されると、経済成長が見込まれ、企業の業績向上や市場拡大への期待から株価が上がる傾向にあります。 - 政治的安定への期待
日本では、政権交代が比較的少なく、与党が選挙で勝利することが多いため、政治的な安定が続くと市場は安心感を得ます。特に、与党が大勝する予測が立つと、政策運営の安定性が期待され、それが株価を押し上げる要因となります。 - 海外投資家の視点
日本市場には多くの海外投資家が参加しています。日本の政治状況が他国に比べて大きく変動しにくいことや、選挙が市場に大きな混乱をもたらさないという認識が、海外投資家にとって魅力的なポイントです。これにより、選挙前後で安定した資金の流入が見られることが多いのです。
アメリカ大統領選挙のアノマリー
日本だけでなく、アメリカでも選挙と株価には興味深い関連があります。SBI岡三アセットマネジメントによる調査によると、1947年から2022年までの間、大統領選挙の前年にはS&P500指数が19回連続で上昇しています。これは「大統領選挙の前年に株価が上がる」というアノマリーが、少なくとも過去のデータ上では非常に信頼性があることを示しています。
アメリカでは、選挙の前年に株価が上がる理由として、次期大統領候補の経済政策に対する期待感が大きな影響を与えています。特に景気刺激策や減税政策が示されると、投資家はそれを好意的に受け取り、株式市場が活況を呈する傾向があります。
上昇 | 下落 | 平均上昇率 | |
3年前 | 120回 | 70回 | 10.2% |
2年前 | 120回 | 70回 | 8.0% |
1年前 | 190回 | 0回 | 18.4% |
大統領選挙年 | 15回 | 40回 | 7.8% |
選挙後の株価動向と注意点
選挙前や投開票日までの株価は、しばしば期待感によって上昇する傾向がありますが、選挙後の株価の動きには慎重さが求められます。ここまで述べた通り、過去の総選挙においては9回が上昇し、6回が下落しています。
つまり、選挙後は必ずしも株価が上がるわけではなく、時には大きく下落することもあるのです。
(日経平均株価)
年 | 総選挙の結果 | % |
1979 | 自民党過半数を割り込む | 4.8 |
1980 | 自民党安定多数を超え大勝 | 3.5 |
1983 | 自民党大きく議席を減らす | 5.4 |
1986 | 自民党安定多数を大きく超え圧勝 | 7.0 |
1990 | 自民党議席減も安定多数確保 | -26.5 |
1993 | 非自民の細川連立内閣発足 | -7.9 |
1996 | 自民党議席増 | -15.1 |
2000 | 自・公・保与党、絶対安定多数確保 | -17.9 |
2003 | 自民党議席減 | 7.6 |
2005 | 郵政解散で自民党圧勝 | 26.4 |
2009 | 旧民主党大勝で政権交代 | -3.4 |
2012 | 自民党圧勝で政権を奪還 | 30.3 |
2014 | 自民党 291議席で圧勝 | 17.5 |
2017 | 自民党 284議席で圧勝 | 3.3 |
2021 | 自民党議席減も絶対安定多数を確保 | -7.2 |
三井住友DSアセットマネジメントの資料を元に作成
アベノミクスと郵政解散の成功例
上昇幅が最も大きかった2012年の総選挙では、アベノミクスが掲げられたことで、株価が大幅に上昇しました。市場は経済再生に向けた政策に期待を寄せ、半年で30.3%という驚異的な上昇率を記録しました。
同様に、2005年の「郵政解散」でも、市場は小泉政権による改革への期待感から26.4%の上昇を見せました。これらの例では、選挙後に政策がしっかりと打ち出され、その期待に応える形で株価が上昇したことがわかります。
バブル崩壊と失敗例
一方で、1990年や1996年の総選挙後は、株価が大きく下落しました。特に1990年はバブル崩壊が始まった時期であり、株価は半年で26.5%も下がりました。この時期、日本経済は大きな調整局面に入り、選挙による政策が短期的な救済にはつながらなかったのです。
1996年も同様に、日本の経済が不安定な状況で、総選挙後に15.1%下落しました。このような失敗例は、選挙後の市場が政策の実行力や国の経済状況に対して厳しく反応することを示しています。
選挙後の株価は慎重に見極めるべき
「選挙は買い」というアノマリーは投開票日までの株価動向にはある程度当てはまるかもしれませんが、選挙後の株価は多くの要因に影響されます。特に、地政学リスクや海外経済の不安定要素、さらには選挙で掲げられた政策が実現されるかどうかが、株価に大きな影響を与えます。
投資家は選挙後、市場が一時的に盛り上がったとしても、それが長続きするかどうか慎重に見極める必要があります。政策が期待通りに実行されない場合や、外部要因で市場が不安定化する場合、株価は下落するリスクがあります。したがって、選挙後の投資戦略は、選挙結果だけでなく、政治的な動向や経済の基本的なファンダメンタルズを冷静に評価することが重要です。
2024年衆院選はどうなる?
今回の2024年衆院選は、短期決戦となっていることもあり、「選挙は買い」というアノマリーが当てはまるかどうかは、投資家にとって非常に気になるところです。特に、石破総理大臣が自民党総裁に就任した直後の東京株式市場では、日経平均株価が一時2000円以上下落し、終値では1900円超の下げ幅となるなど、非常に不安定な船出でした。これは、歴史的にも5番目に大きな下落幅で、市場に衝撃を与えました。
その後、衆議院解散前日の11月8日には日経平均株価の終値が3万8937円54銭で、公示日の15日には一時的に4万円台を回復。しかし、11月18日の終値では3万8981円75銭と微妙な動きを見せています。
選挙後の動きはどうなる?
過去の15回の総選挙では、すべての日経平均株価が投開票日までに上昇してきましたが、今回の選挙で同じことが起きるかは、慎重に見守る必要があります。特に、選挙後にはアメリカ大統領選挙という大きなイベントが控えており、こちらも市場に大きな影響を与える可能性があります。
市場の注目ポイント
今回の選挙の市場への影響を読む上で、以下の3つのポイントが重要です。
- 与党が過半数を獲得できるか
選挙で与党が過半数を獲得できるかどうかが大きな焦点です。与党が大勝すれば政治的な安定が期待され、株価が上がる可能性がありますが、逆に不透明な結果となれば市場はネガティブに反応することが考えられます。 - アメリカ大統領選挙
衆院選後の最大のイベントであるアメリカ大統領選挙も、株価に大きな影響を与えます。新たな大統領の政策が増税か減税かによって、日本の株式市場にも波及効果が出るでしょう。 - 地政学リスク
近年の株式市場は、地政学リスクに非常に敏感です。特に中東情勢の緊張や、韓国と北朝鮮の関係悪化など、世界的な不安定要素が市場に影響を与える可能性があります。
今回の総選挙は波乱含みか?
今回の総選挙は、過去の選挙とは異なる不確定要素が多く、株価の動きは読みにくいと言えます。投開票日まではアノマリーに従って上昇傾向が続くかもしれませんが、その後は、アメリカ大統領選挙や地政学リスクが株式市場にどのような影響を与えるかがカギとなるでしょう。
来週には選挙戦が終盤を迎えると同時に、アメリカでは主要企業の四半期決算が相次ぎます。このような国際的な要因も含め、今後のマーケット動向には引き続き注意が必要です。