現代の金融市場には様々な種類の債券が存在しますが、その中でもAT1債は注目を浴びています。
AT1債は、金融機関の資本強化やリスク回避のために発行される債券の一種です。銀行や金融機関が発行する特殊な債券であり、一般的な債券とは異なる特徴を持っています。初心者にとっては馴染みのない用語かもしれませんね。
この記事では、AT1債とは何かについて初心者向けにわかりやすく解説します。また、AT1債の金利やTLAC債との違いについても触れていきます。
そのほかにも、これからお金や金融について知りたい人向けにたくさん解説していますので、ぜひ読んでみてください!

AT1債とは何か?
AT1債(Additional Tier 1債)は、銀行や保険会社などの金融機関が発行する債券であり、資本を補強するための手段として利用されます。簡単に言うと 「銀行が資本を増やすために発行する特別な債券」 です。

債券と株式の中間的な特性を持つのだ!
これらの債券は、資本が不足した場合に自動的に元本が減少する「クーポン欠落条項(CoCo)」を含んでいることが特徴です。
AT1債には、「銀行がピンチのときに投資家も一緒に負担する仕組み」があります。その代表的な仕組みが 「クーポン欠落条項(CoCo)」 です。
クーポン欠落条項(CoCo)
普通の債券は、会社(銀行)がどんなに苦しくても 利息(クーポン)を払う義務があります。
しかし、AT1債には「銀行がヤバくなったら、利息を払わなくてもいい」仕組みがある のが大きな特徴です。
銀行の資本が一定の基準(規制で決まっている)を下回ったら、AT1債の利息(クーポン)の支払いがストップする(投資家は利息を受け取れない)
AT1債の元本が減ることもある
銀行の経営がもっと悪化すると、AT1債の元本も減らされる ことがあります。
つまり、投資したお金の一部(または全部)が消えてしまう可能性があるのです。
例えば、普通の債券なら銀行がつぶれない限り、満期になれば元本が返ってきますが、AT1債なら銀行がつぶれる前でも、状況が悪くなると「返さなくてもOK」となることがあります。
普通の 劣後債(リスクの高い債券)は、銀行が破綻してから「もう返せません!」となりますよね。しかし、AT1債は 破綻する前から「もう返せません!」となる可能性があるのが大きな違いです。
つまり、AT1債は「銀行がまだ生きている段階で、投資家の負担が発生する」仕組みになっています。
AT1債の特徴 まとめ
このようにAT1債は、普通の債券とは違い、いくつかの特徴があります。
AT1債は、金融機関が経済的な危機に直面した場合や破綻のリスクが高まった場合に、投資家による支援を受ける仕組みとなっています。クーポン欠落条項により、金融機関が一定の資本水準を下回ると、AT1債の利息支払いが停止され、元本が減少する可能性があります。これにより、投資家が損失を被ることになる可能性がありますが、金融機関の破綻を回避するための財務強化策として役立っています。
AT1債はあくまで債券であり、投資家は元本や利息の支払いを期待して投資を行います。したがって、金融機関が健全な状態を維持し、AT1債の元本や利息を適切に支払うことが期待されます。
AT1債はいざという時には、返さなくていい債券です。破綻したら返さないことにできる債券(劣後債)もありますが、AT1債とは、破綻処理に入る前、いわば銀行がまだ生きている状態で返さないことにできるものです。
つまり、破綻処理に入った段階では通常、株主の取り分はゼロになっていますが、AT1債は、株主の取り分がプラスの段階で返さないことにできるのです。
- 元本が償還されない可能性(永久債)
- AT1債は永久債のため、発行体(銀行など)が自主的にコール(早期償還)しない限り、投資家は元本を返してもらえません。多くのAT1債は5年ごとのコールオプション付きですが、行使される保証はありません。
- 利払いの不確実性(クーポンスキップ)
- AT1債の利払いは銀行の業績や規制の影響を受けるため、支払われないことがあります。
- 銀行が一定の自己資本比率を満たさない場合、利払いを停止できるという特徴があります。
- 償還時の元本減損(Write-downリスク)
- 一定の自己資本比率(CET1比率)が低下すると、元本が減額(Write-down)されたり、普通株式に転換されるリスクがあります。
- スイスのクレディ・スイス破綻時には、AT1債が全額減損(ゼロになった)という事例がありました。
- 流動性リスク
- AT1債は流動性が低いことがあり、市場で売却しようとしても希望する価格で売れない可能性があります。
- 金利リスク
- AT1債は変動金利が多いため、金利上昇時にクーポンが増えるメリットがある一方、再投資リスクや市場価格の変動リスクが伴います。
AT1債の金利
AT1債の金利は、他の債券と比較して高い水準に設定されています。これは、AT1債が高リスク・ハイリターンな投資商品であることを反映しています。金融機関はAT1債を発行することで資本を増やすことができますが、その代わりに投資家はより高いリターンを求めることができます。
AT1債の金利は、一般的には固定金利ではなく、変動金利となることが多いです。これは、金融機関の収益やリスク状況に応じて金利が変動する仕組みです。また、AT1債の金利は発行時に決められ、一定期間ごとに再評価されることもあります。
高い利回りを享受できる反面、発行体である金融機関が破綻した際の弁済順位が普通社債などに比べて低く、リスクが高い債券の一種です。
AT1債とTLAC債の違い
AT1債とTLAC(Total Loss-Absorbing Capacity)債は、両者とも金融機関のリスク回避や破綻回避のために使用される債券ですが、いくつかの重要な違いがあります。
まず、AT1債は金融機関のTier 1資本を補強するために発行される一方、TLAC債は金融機関の総損失吸収能力を向上させるために発行されます。TLAC債は、金融機関が破綻の際に損失を吸収する役割を果たすため、AT1債よりもより厳しい条件が設けられています。


また、AT1債はクーポン欠落条項を含んでいるのに対し、TLAC債にはこのような条項はありません。AT1債では金融機関の資本が一定水準を下回ると元本が減少する可能性がありますが、TLAC債ではそのようなリスクは存在しません。
さらに、AT1債は一般的には償還期間が設けられていません。AT1債は債券と株式の中間的な特性を持つ証券のひとつで、原則、償還期限のない永久債として発行されます。
一方で、TLAC債には償還期間が設定されています。TLAC債は一定の期間が経過すると償還されるため、投資家は一定期間ごとに元本を回収することができます。
金融クイズ
「AT1債」は株式と債券の中間の性質を持ち、金融破綻時の弁済順位が普通債に比べ低くリスクが高い証券です。
原則、償還期限のない永久債として発行されます。銀行の中核的自己資本であるTier1(ティアワン)の一部として組み入れられる証券であることから、正式名称をなんというでしょうか?
- Account Tier1
- Additional Tier1
- Acknowledged Tier1
正解は、記事の最後へ!!
AT1債が生まれた背景
AT1債が発行されるようになったのは、2008年のリーマンショック(金融危機)がきっかけです。リーマンショックの影響で、多くの銀行が経営危機に陥り、政府が税金を使って銀行を救済(ベイルアウト)しました。しかし、これは 「国民の税金で銀行を助けるのはおかしい!」 という批判を招きました。


この反省から、「次の金融危機では 銀行の株主や債権者がリスクを負う仕組みを作ろう!」という考えが生まれました。この仕組みが 「ベイルイン」 です。
その中で、「銀行がピンチになったら投資家に負担してもらう特別な債券を作ろう!」 となり、AT1債が登場しました。
- ベイルアウト(Bail-out):政府が税金で銀行を救済
- ベイルイン(Bail-in):投資家(株主や債権者)が負担
つまり、AT1債の投資家が「銀行の緊急資金」としてリスクを取る仕組みが作られました。
- 銀行が資本不足になるのを防ぐため
- 万が一のときに投資家が損失を負担する仕組みを作るため(ベイルイン)
- 政府(国民)の税金を使わずに銀行を安定させるため
バーゼルⅢとAT1債
この考えを具体的なルールにしたのが、「バーゼルⅢ」という銀行の国際規制です。バーゼルⅢでは、銀行の財務を強くするために、以下の対策が取られました。
- 自己資本比率の引き上げ
- 銀行は一定以上の資本(自己資本)を持たないとダメ!
- 資本が足りないと危機時に倒れる可能性があるため。
- 自己資本バッファー(余裕資本)の導入
- 余裕のある資本を持つことで、緊急時に対応できるようにする。
- 自己資本の厳格化(質の向上)
- 資本として認められる条件を厳しくし、不安定な資本を排除。
この中で、AT1債は「銀行の自己資本の一部」としてカウントできる特別な債券として導入されました。
バーゼルⅢの規制対象となるグローバルな大手銀行(G-SIBs)は、日本では以下の3つです。
- 三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)
- 三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)
- みずほフィナンシャルグループ(MFG)
これらの銀行もAT1債を発行し、自己資本を増やしています。


投資初心者がAT1債に投資するなら?
AT1債は 「リスクが高いけど利回りも高い」 という特徴があるので、投資初心者は慎重に判断する必要があります。以下のような場合に考えるのが良いでしょう。
安定した銀行のAT1債を狙う
- 信用力の高い大手銀行(例えば、メガバンクや政府の支援を受けやすい銀行) のAT1債なら、リスクは比較的低め。
- 銀行の財務状況を確認し、安定しているところを選ぶ。
重要なポイントとしては、
- その銀行は毎年安定して利益を出しているか?
- 自己資本比率が高いか?(8%以上が望ましい)
- 過去にAT1債の利息を飛ばしたことがないか?
こうしたことを必ずチェックしましょう。
市場が混乱して価格が下がったときに買う
- 市場が不安定な時(例:リーマンショック級の出来事や金融危機が発生したとき)には、一時的にAT1債の価格が大きく下がることがある。
- 「この銀行なら持ちこたえそう!」 と思える銀行のAT1債を割安で買えれば、高い利回りを得られるチャンス。
例えば、2023年のクレディ・スイスの破綻時、AT1債が大幅に暴落しました。その後、優良銀行のAT1債も安くなりました。
ただし、「銀行が本当に生き残れるか?」をよく考える必要があります。



ただ安いから買うのはNGなのだ!
AT1債は リスクが高い ので、「全財産をAT1債に!」は絶対NGです!特に、ポートフォリオの 5~10%以内 に収めるのがベターです。
普通の債券は「会社がつぶれなければ、お金が戻る」けど、AT1債は 銀行が危機に陥ると元本ゼロになる可能性 があります。
「このお金は最悪なくなってもいい!」という気持ちで投資すること!¥
まとめ AT1債
AT1債は金融機関の資本強化やリスク回避のために発行される債券であり、クーポン欠落条項を含んでいます。AT1債の金利は高く設定されており、金融機関の収益やリスク状況に応じて変動することもあります。
一方、TLAC債は金融機関の総損失吸収能力を向上させるために発行され、AT1債とは異なる条件が設けられています。投資家がAT1債に投資する際には、リスクを十分に理解し、十分な情報収集を行うことが重要です。



仕組債のように「複雑な条件が多い商品には手を出さない」という姿勢は非常に賢明なのだ!
金融クイズの答え
正解は、、、
Additional Tier1
です!