「グレート・ギャツビー・カーブ」という言葉を聞いたことがありますか?
これは、アメリカの小説「グレート・ギャツビー」に由来し、貧富の格差が世代を超えて遺伝する現象を指します。この興味深いテーマは、社会学者や経済学者の間で議論されており、我々の経済的な運命が先祖からの”遺伝子”によって影響を受ける可能性を探るものです。
経済的な成功や貧困は、多くの要因から生じますが、遺伝子もその一因となり得るのです。
この記事では、”グレート・ギャツビー・カーブ”現象がどのように機能し、遺伝子が私たちの経済的な未来にどのような影響を及ぼすかを探求します。
The Great Gatsby Curve (グレートギャツビーカーブ)とは?
「グレートギャツビーカーブ」は、ノーベル賞受賞経済学者であるアラン・クルーガーによって提唱され、その名が知れ渡りました。クルーガーは、国の所得格差と親子間の所得格差の関連性についての研究を深めました。
このグラフは、所得格差の大きい国々に住む人々が社会において前進することがどれほど難しいかを示しています。
このグラフは、横軸に貧富格差の大きさを示すジニ係数、縦軸に親と子の所得の連動性を示す数値を表示しています
グラフの右上に行くほど所得格差が大きく、かつ、貧しい家庭の子供たちが努力によって富裕層になるのが難しく、社会的な移動性が低い国々を示しています。グラフ上の左下の領域のデータポイントは、所得格差が低く、社会的な移動性が高い国々を示しています。
米国は先進国の中でもっとも右上に位置しており、アメリカン・ドリームと呼ばれる「誰にでも平等なチャンスがある」という信念は、もはや幻と言わざるを得ません。
米国の所得格差は過去30年間にわたり、増加し続けています。所得格差の大きい国では、社会的な流動性が低く、低所得の家庭に生まれた子供たちが経済的な成功へのチャンスに乏しい状況が続いています。要するに、何も改善策を講じなければ、社会の階層構造が変わらずに持続する可能性が高まります。
一方、発展途上国でも所得格差が拡大し、上向きの経済的流動性が低い傾向がみられ、将来の世代にとって社会的な階層を上る機会に影響を及ぼすかもしれません。
一番不平等で経済的な弾力性が低い国々は、北欧諸国のようです。一方、日本は中程度の位置にあります。また、日本はジニ係数は高いですが、親子の所得連動性は米英仏を下回ります。
ただし、今後の展望はどうでしょうか。米コロンビア大学の教授であるスティグリッツ氏は、所得格差の拡大に寄与する要因の1つとして貿易自由化を挙げています。これは、発展途上国の非熟練労働者と先進国の非熟練労働者との競争が生じるからです。
ジニ係数とは?
ジニ係数とは、社会における所得分配の不平等さを示す指標です。
この係数は、0に近いほど所得格差が少ない状態を示し、格差が大きいほど数値が高くなります。格差は社会における不平等感を引き起こし、ジニ係数が特定の数値を超えると警戒が必要です。一般的な基準では、ジニ係数が40%以上であれば社会的な騒乱の警戒ラインとされ、60%以上では危険な状態とされます。低いジニ係数を持つ国では、税制や社会保障による所得再分配が進んでいる傾向があります。
人生は親ガチャで決まるのか?
日本では、2021年の新語・流行語大賞のトップテンに「親ガチャ」が入りました。
この言葉は、「ガチャガチャで出てくるアイテムのように親を自分で選べないことで、親が当たりだったりはずれだったりすることをひと言で表現した言葉」と説明されています。
これに関連して、中央教育審議会初等中等教育分科会(第134回)の会議資料に注目が集まっています。この資料は、東京大学大学院教授の中村先生、早稲田大学准教授の松岡先生、オックスフォード大学教授の苅谷先生が発表したもので、「臨時休業時における児童生徒・保護者の対応 -家庭・学校間の格差に注目して-」と題されています。
この資料では、家庭を「両親とも大卒」、「両親いずれか大卒」、「両親とも非大卒」、「シングルマザー大卒」、「シングルマザー非大卒」、「シングルファーザー」、「その他」の7つのカテゴリーに分類し、休校期間中の学習状況や休校期間中の学習形態などが分析されています。
この資料の最終ページには、以下のような結論がまとめられています。
「宿題や何をすべきか明確な枠付けをしているプリント学習では、相対的に差は目立たなくなる」一方で、「非大卒層の子供が特に家庭学習上の課題を抱えている傾向」があり、「休校期間中の家庭学習にも家庭間格差が連動」している、という指摘がなされています。
これらの事実から、日本がグレート・ギャツビー曲線の左下に位置するとしても、家庭間格差が教育に影響を与え、世代間での格差が継承される可能性は小さくないという点が浮き彫りになるではないでしょうか?
まとめ グレート・ギャツビー・カーブ:社会的格差と世代間の連鎖
グレート・ギャツビー・カーブは、社会における所得格差と世代間の連鎖を浮き彫りにする重要な概念です。このカーブが示すのは、所得格差が大きい国ほど、親の経済的状況が子供の将来に大きな影響を与えるという事実です。つまり、社会のはしごを上るのが難しくなり、上層階級と下層階級が固定化する可能性が高まります。
日本は、このカーブにおいては比較的左下に位置します。つまり、格差が大きい国ではないと言えます。しかし、家庭間格差が教育や機会に影響を与え、将来の世代にも連鎖してしまう可能性があることは明らかです。この事実を無視することはできず、格差を縮め、社会的流動性を高めるためにはさらなる政策と努力が必要です。
教育の均等な提供、社会保障の強化、チャンス均等化のためのプログラムの拡充など、様々な方策が必要です。グレート・ギャツビー・カーブは、私たちが生まれ持った家庭や社会の背景に左右されず、個々の能力や努力が報われる社会を築くための警鐘とも言えるのです。