【行動ファイナンス初心者講座】第4回：「高値覚え」と「塩漬け株」の心理バイアス

今回は、株価の過去の高値に囚われてしまう心理的な「高値覚え」と、それによって生じる「塩漬け株」の裏側にある心理バイアスを解説します。

ケーススタディ：新米投資家・松井さんの挑戦

35歳の松井さんは、地方の中小企業に勤める会社員。普段はコツコツと貯金をしており、大きな無駄遣いをすることはほとんどありませんでした。独身である彼は、親戚や友人から「将来のためにお金を増やす方法を考えた方がいい」と言われ、数年前から投資に興味を持ち始めました。

「銀行に預けておくよりはマシだろう」と思い立った松井さんは、投資初心者向けの本を購入したり、YouTubeの解説動画を見たりして勉強を始めます。特に興味を持ったのが、日本の成長企業に投資することでした。好きな企業を応援しながらお金も増えるという考えに、彼は心を惹かれたのです。

最初の一歩：初めての株式投資

ある日、松井さんは友人から「最近急成長しているE-TechっていうIT企業が注目されているよ」と聞きました。調べてみると、E-Techは画期的なソフトウェアを開発し、売り上げが急増しているとのこと。期待に胸を膨らませた松井さんは、少し高いと思いながらもE-Techの株を購入することに決めました。

購入した直後、E-Techの株価はさらに上昇。松井さんは「やっぱり投資って面白いな！」と感動し、次第に株式市場を見るのが日課となっていきました。

落とし穴：急な株価下落

ところが、投資から数カ月後、E-Techの株価が突然急落しました。理由は、同業他社が新しい製品を発表し、E-Techの成長が鈍化するのではないかという懸念が広まったためでした。

松井さんは驚きました。「でも、この企業は将来性があるはず。いつかまた株価は上がるだろう」と自分を慰めつつ、売る決断ができずに持ち続けました。しかし、株価はさらに下落。ニュースではE-Techが大規模なリストラを行う可能性があると報じられ、不安は一層強まりました。

新たなチャンスと悩み

その後、松井さんは別の友人から「今が買い時だと言われているZグリーンという企業の株を見てみたら？」と勧められました。Zグリーンは再生可能エネルギー分野で注目を集めている企業で、株価は割安感があるとのこと。

松井さんも調べてみると、確かに魅力的な企業のようでした。しかし、Zグリーンの株を購入するには、持っているE-Techの株を売却する必要があります。「でも、E-Techを売るのは損を確定させることになるし…」と、松井さんは悩みました。

結局、松井さんは利益が出ている別の企業の株を売却し、Zグリーンを購入することにしました。「損を確定させるのは嫌だけど、利益が出ている株なら売っても気が楽だ」と考えたのです。

「高値覚え」心理バイアスが生む判断ミス

松井さんの行動には、典型的な心理バイアスが見られます。

1. アンカリング効果

E-Techの「購入時の価格」や「一時的な高値」に囚われてしまい、それを基準に現在の株価を評価してしまいました。結果として「損を確定させたくない」という心理が働き、非合理的な判断を下してしまったのです。

2. 保有効果

「自分が持っているE-Techの株」に対して、実際の市場価値以上の価値を感じてしまいました。そのため、割安なZグリーンの株式に移行するための売却が困難になりました。

塩漬け株の罠とその回避法

「高値覚え」のせいで売却できない株式は「塩漬け株」となります。塩漬け株は、資産の機会損失を生み出すだけでなく、投資全体のパフォーマンスにも悪影響を及ぼします。

塩漬け株の罠から抜け出すためには、以下の方法が有効です。

1. 数字ではなく目標に基づいた判断

投資目的や目標に基づいて、保有銘柄の価値を冷静に評価する習慣をつけましょう。「目標達成のためにこの株を持ち続けるべきか？」という視点が大切です。

2. 第三者の意見を取り入れる

信頼できる投資のプロや、冷静な友人の意見を参考にするのも有効です。

3. 定期的なポートフォリオ見直し

損失銘柄を避けるのではなく、ポートフォリオ全体を見直して不要な銘柄を整理する癖をつけると、心理バイアスの影響を最小限に抑えることができます。

まとめ 「高値覚え」と「塩漬け株」

「高値覚え」や「塩漬け株」は、投資初心者が陥りやすい典型的な心理的罠です。しかし、心理バイアスを理解し、合理的な判断を下す習慣を身に付けることで回避が可能です。

次回の連載では、さらに深い心理バイアスや、投資における成功のための実践的なテクニックについて解説していきます。投資初心者の皆さんも、ぜひ一緒に学びましょう！