IVS2024 KYOTO:京都から世界へ、イノベーションの新時代を切り拓く3日間

2024年7月4日から6日にかけて、古都京都で「IVS2024 KYOTO / IVS Crypto 2024 KYOTO」が開催されました。”Cross the Boundaries”(境界を越える)をテーマに掲げた今回のイベントでは、スタートアップ、投資家、大企業、そして学生まで、多様な参加者が集い、熱い議論と交流が繰り広げられました。

目次

Day 1: 未来を見据えた思想とイノベーション

SFから現実へ ~近未来に訪れる社会課題と向き合う~

IVS Main Stageで行われたこのセッションでは、TSUBAME INDUSTRIESのCTO石井啓範氏、ALEのCEO岡島礼奈氏、Beyond Next VenturesのSpace Tech Advisor佐藤将史氏、Japan Innovation Partyの阿部圭史氏、management machineのCEO安野貴博氏が登壇しました。

SF作品が現実のイノベーションにどのような影響を与えているかが議論され、登壇者からは「イーロン・マスクやジェフ・ベゾスといった宇宙ビジネスを牽引する人物は、SFで描かれたことを実現させている」という指摘がありました。参加者からは「SFの世界が現実になりつつある感覚を強く感じた」という声が聞かれました。

岡島氏は、マイケル・クライトンのジュラシック・パーク(小説)から影響を受けたと語り、「理学系の知識に基づいたサイエンスをベースにした物語にリアリティを感じ、科学技術を使った未来の可能性を感じた」と述べました。

産学官視点での日本生成AIのキーアジェンダ

自由民主党の平将明議員、RecruitのDirector小宮山利恵子氏、Amazon Web Services JapanのPrincipal AI/ML Solutions Architect宇都宮聖子氏、東京大学の松尾豊氏、経済産業省の渡辺琢也氏、ABEJAのFounder & CEO岡田陽介氏が登壇し、日本の生成AI戦略について産学官の視点から議論が交わされました。

松尾氏は、教育における生成AIの活用について以下のように語りました。

「生成AIを教育にどう活用するかは、大きなテーマです。1クラス1AI家庭教師のようなものが、今後実現するかもしれません。生成AIネイティブ世代の子供たちが、どのようにAIと向き合っていくかを考える必要があります。」

現行の教育システムでは、子供たちは褒められると嬉しい、叱られると悲しいという強化学習的な考え方に基づいて教育されています。しかし、褒められようが叱られようが、自分が興味のあることにしか関心を持たない子供もいます。松尾氏は「そういった子供たちは、今の教育システムの中で置いていかれます。うまく引き出してくれる先生がいれば伸びるけれど、そうした出会いは偶然に頼らざるを得ないのが現状です」と述べています。

生成AIを活用することで、子供たちの興味関心に寄り添った教育を提供できる可能性があります。松尾氏は「AIが個々の子供の興味を分析し、適切な学習内容を提供することで、より効果的な教育が可能になるでしょう」と期待を寄せています。

岡田氏は「日本の生成AI開発は世界と比べてまだ遅れを取っているが、独自の強みを活かした戦略が重要」と指摘しました。また、会場では「日本において生成AIの技術は上手く進んでいるか否か」についてオーディエンスの意見を問う場面もあり、「上手く進んでいない」という意見がマジョリティーを占めました。

哲学・思想なきイノベーションはありえない!起業家がめざすべき思想とは?

早稲田大学ビジネススクールの入山章栄教授、SoracomのCEO & Co-Founder玉川憲氏、京都市長の松井孝治氏、Harvard Universityの野村将揮氏、talikiのCEO / General Partner中村多伽氏が登壇しました。

人間の寿命延長と幸福、技術進歩と倫理 (松井氏)

松井氏は、人間の寿命が130歳になる時代が来る可能性について疑問を投げかけました。「それは本当に良いことなのだろうか?」と。AIや生成AIが進化し続ける社会が必ずしも素晴らしい社会であるとは限らないと彼は主張します。文字の発明からコンピュータ、AIの発明までの人類の進歩は、果たして人類を豊かにしてきたのでしょうか?

「幸せとは何か、豊かさとは何か、その定義は非常に難しい」と松井氏は述べます。しかし、彼が京都に住んでいることから感じる「京都に住んでて良かった」「楽しいな」「ワクワクするな」といった感情を、どうすれば京都市役所や職員、地域の人々の力を結集して増進させることができるのかが、市長としての最大のテーマであると強調しています。

幸せの定義、行政の役割 (松井氏&野村氏)

松井氏と野村氏は「幸せとは何か?」という問いについて深く考えます。それは単なる快楽なのか、やりがいなのか、ウェルビーイングなのか。幸せをどう増進させるのかは、個人だけでなく隣人や家族、地域、社会全体を考えた上で真剣に取り組むべき課題であると述べています。

しかし、幸せになればなるほど、政府がどこまで関与できるのかという問題も重要になります。幸せとは何か、それをどう定義するかは非常に難しい課題であり、まだ答えは出ていないのが現状です。行政と市民の役割分担、ガバメントとマーケットの間にあるコミュニティソリューションの可能性を模索する必要があります。

結論: 未来へ向けたメッセージ (野村氏)

野村氏は、哲学・思想がスタートアップやビジネス、そして社会全体にとって不可欠なものであると強調します。異なる価値観や思想を理解し、対話を通じて共存していくことが、より良い未来を創造するために重要であると述べています。

「京都から世界に向けて、新しい思想を発信していくことで、人類全体が持続可能で幸せな未来を築いていける」と野村氏は結論付けました。

Day 2: 革新的なスタートアップの競演

2日目の最大のハイライトは、スタートアップピッチコンテスト「IVS2024 LAUNCHPAD KYOTO」でした。300社以上の応募から選ばれた15社が熱いピッチを繰り広げ、特に注目を集めたのが以下の2社です:

1. emole株式会社の「BUMP」

1話3分のショートドラマ配信アプリ。従来のコンテンツ消費の形を変える可能性を秘めたサービスとして、審査員から高い評価を得ました。

2. RENATUS ROBOTICS株式会社の「RENATUS」

圧倒的なピッキング効率・格納効率を実現する大規模・超高密度な自動倉庫システム。最終的に優勝を果たし、スタートアップ京都国際賞を受賞しました。

RENATUS ROBOTICSの安藤奨馬氏は優勝後、「この優勝の報告を、最初にエンジニアのチームにしたいです。テクノロジーありきのサービスである我々は本当に泥くさい事業をやっており、エンジニアチームはスピード感を持って対応してくれています」と喜びを語りました。

Day 3: 消費者行動変容とエンターテインメントの未来

今こそ消費者の行動変容についてガチで考える

このセッションでは、エシカル消費や「自分を好きになれる」プロダクトの重要性が議論されました。登壇者からは「これまでは価格と品質だけだったのが、これからは『誰かのために』という要素が行動変容の大きな原動力になる」という指摘がありました。プロダクトストーリーをプロモーションにデザインし、ユーザーの思いと共鳴することの重要性が強調されました。

次世代エンターテインメントの勝ち筋

Going MerryのGeneral partner鈴木おさむ氏、The Human MiracleのCEO / Creative Director小橋賢児氏、heart relationのCCO小嶋陽菜氏、ASOBISYSTEMのCEO中川悠介氏が登壇しました。

エンターテインメント業界のトップランナーによるこのセッションは、立ち見が出るほどの大盛況となりました。主な論点は以下の通りです:

1. ファンを獲得するためには「体験」につなげることが重要

2. リアルに体験しに行く熱量があればファンになりやすい

3. 経営者とクリエイターがタッグを組み、それぞれの役割を分担することで日本のエンタメはさらに盛り上がる

また、鈴木氏からtoCスタートアップ向けのファンド立ち上げが発表され、会場を沸かせました。

生成AIと日本の戦略

イベント全体を通じて、生成AIと日本の戦略についても活発な議論が行われました。主なポイントは以下の通りです:

1. 国家戦略としての生成AI開発支援: 開発者を支援する枠組みをいち早く国で構築し、展開していく必要性が指摘されました。

2. 日本の優位性: 純粋にGPUを使ってモデルを開発するだけでは勝てないが、AIの活用方法やユニークな分野でのターゲット設定が重要であると議論されました。

3. 教育への活用: 生成AIを教育に活用することで、子供たちの興味関心に寄り添った教育を提供できる可能性が示唆されました。

4. 行政での活用: 政府はデジタルガバメント、ガバメントクラウドの次のステップとして、AI導入を検討しています。

5. 社会実装の課題: 生成AIの活用は急速に進んでいるが、業務プロセス全体の変革が必要であると指摘されました。

総括:境界を越えて未来を創る

常に人で溢れていたGreen,YellowSTAGE

3日間を通して、IVS2024 KYOTOは “Cross the Boundaries” というテーマを体現するイベントとなりました。SF思考から始まり、最先端のテクノロジー、そして哲学や思想まで、幅広いテーマで議論が交わされました。

スタートアップ、大企業、投資家、学生など、異なる立場の参加者が一堂に会し、新たな知見と人脈を得る貴重な機会となりました。特に、LAUNCHPAD KYOTOでは、次世代を担う革新的なスタートアップの姿を目の当たりにし、日本のイノベーション力の高さを再確認することができました。

生成AIの議論では、日本の強みを活かした戦略の重要性が強調され、教育や行政を含む様々な分野での活用可能性が示されました。同時に、技術の進歩に伴う社会変革の必要性も指摘され、参加者に深い洞察を与えました。

来年のIVS2025 KYOTOでは、今回の成果をさらに発展させ、日本のスタートアップシーンがより一層世界に向けて飛躍することが期待されます。

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この記事を書いた人

Stellaria 代表
2002年生まれ、iU1期生。大学3年生でCOOとして学生起業。現在は退職しCreative Label Stellariaを立ち上げ中。ゲームや音楽などのエンターテインメントや生成AIに関する事業を行っている。

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